TOPICSINTERVIEW

誰もが快適に過ごせる居場所をつくるには? 生理用ナプキンが無料で受け取れるデバイス「トレルナ」を導入した商業施設の試み

石塚まゆさん

京王電鉄SC営業部チーフ。キラリナ京王吉祥寺、ミカン下北などで施設の管理や、店舗の運営をサポートする仕事を担当している。

生理が突然来てしまい、お手洗いで戸惑う……月経のある方なら、きっと一度は経験しているシーンではないだろうか。

そんなときに助けてくれるのが、トイレの個室で生理用ナプキンが受け取れる「toreluna(トレルナ)」だ。広告モニター付きのデバイスで、専用アプリからQRコードを読み込めば、すぐに無料でナプキンが取り出せる。

トレルナを導入している施設のひとつが、京王井の頭線「吉祥寺駅」直結のショッピングセンター「キラリナ京王吉祥寺」。果たしてどんな想いで、何を目指してトレルナを設置したのか。プロジェクトを進めたひとり、SC営業部チーフの石塚まゆさんに、その経緯や周囲のリアクション、今後のキラリナ京王吉祥寺が目指す姿などを聞いた。

生理の話をもっとオープンにするために

キラリナ京王吉祥寺の2階。ノンワイヤーブラやサニタリーショーツ(生理用ショーツ)などが並ぶインナーウェアブランド「ウンナナクール」の横に、ワインレッドの壁紙がスタイリッシュな女性用トイレがある。清潔に磨き上げられた個室のなかには、モニター付きのデバイス「トレルナ」が。専用アプリをダウンロードし、QRコードを読み込むと、すぐに一枚のナプキンが出てきた。

トレルナからナプキンが出てくる様子

導入プロジェクトを担当した石塚さんは、最初、ネットニュースでナプキン無料提供のシステムの存在を知ったという。

「以前からチームのメンバーと『女性の身体や生理をサポートするような取り組みも、商業施設という公共の場でもっとやっていけたらすごくいいよね』という話をしていたんです。それで目についたのが、トレルナ。もともとお付き合いのある企業が関わっていたこともあり、すぐに担当者さんをご紹介いただきました」

その迅速な動きの背景には、石塚さん自身の課題意識もあった。生理についてはどうしてもタブー感があり、なかなか他人と気軽には話しづらい。学生時代に思いがけず生理になった友達は「今日、あれ持ってる?」と、こっそり尋ねてきたりもした。

「トレルナの導入をInstagramで告知しようとしたときにも、写真に思いきりナプキンを写して大丈夫だろうか、と少し躊躇してしまいました。もしかしたら、生理用品を目にすることで不快な気持ちになる方がいらっしゃるかもしれないと感じたんです。でも本当は、もっとオープンにしていい話題なんじゃないかなと思うときもあります。さらに言うなら、生理は女性だけのトピックでもなく、性別を問わず誰もがフラットに向き合えるテーマになってもいいのかもしれません」

トレルナ担当者からサービス詳細を聞けば聞くほど、キラリナチームの姿勢は前のめりになっていった。石塚さんは「施設として、トレルナを導入することにネガティブポイントがほとんどなかったんです」と、振り返る。モニターに協賛企業の広告動画が流れるため、ナプキンを受け取るユーザーは無料で利用可能。設置予定のトイレには充分な設置スペースとコンセントがあり、デバイスの淡い色味も、空間の雰囲気を邪魔するものではない。

そもそもキラリナ京王吉祥寺では、女性トイレの作り込みに凝っていた。レディースアパレルの店舗が多い施設柄、女性トイレを広くして、快適に過ごせるパウダースペースやベンチを設置。トイレに向かう廊下の壁には、はめ込み式の商品ディスプレイなどもしつらえてある。

「商業施設をご利用いただくお客様のニーズは、お買い物やお食事だけではありません。だからこそ今後、キラリナ京王吉祥寺がもっと魅力的な施設になっていくために、社会課題に対するアプローチは不可欠だと考えます。それはお客様に寄り添う施策のひとつだし、そのアクションがきっとご来店のきっかけにもなると感じて、トレルナの設置を決めたんです」

2階女性トイレのアイランド洗面台

5階には鳥かごのパウダールームも

「承認されている」「ケアしてもらえている」喜び

施設でトレルナが稼働しはじめて、約4ヶ月。現時点ですでに、多くのポジティブな反応が届いている。

「実際に活用されたお客様のアンケートでは『急に必要になったので大変助かった』『個室内のため、周りを気にせずナプキンを受け取ることができてよかった』『さまざまなところで使えるようになってほしい』などの前向きなお声がたくさんありました。データとしても、この4ヶ月で1500件以上利用を確認しています。また、導入を告知した際のInstagramには『優しいね』『ありがたいです』なんてコメントをいただきました。お知らせの投稿にコメントをいただけるなんてことが、まずあんまりないんですよ。だから、簡単なリアクションでも本当に感動しました。それから、当社に興味をもってくださっている就活生の方からも『トレルナ導入のリリースを見ました。取り組みの背景が聞きたいです』なんて、うれしいコメントをもらっています。世の中の関心が高まっていることを、肌で感じますね」

ナプキンを配布するというサービスの枠組みは、さほど奇をてらったものではない。けれど、困ったときに目の前にあれば、確実に役に立つ。いままでに存在していなかったことが少し不思議なくらい、喜ばれるサービスだ。ときには、突然の生理でトイレに駆け込み、隣にあるウンナナクールでサニタリーショーツを買いたいといったニーズも生まれる。トレルナでウンナナクールの10%オフクーポンをダウンロードできるのは、そうしたお客様を見越しての施策だ。

「こうしたサービスがいよいよできたという新鮮さだけでなく、生理用品の無償提供によって『月経のある身体をケアしてもらえている』『承認してもらえている』といった喜びを感じられることが、反響の大きさにつながっているのではないかと思います」

ウンナナクールで発売しているサニタリーショーツ

お客様のために「公共の場」でありたい

石塚さんは、商業施設のことを“公共の場”だととらえている。

「たとえお買い物やお食事をされないお客様にも、気軽に立ち寄って楽しんでいただきたい。街のなかに溶け込んでいる、誰にとってもウェルカムな場所でありたい。そういう意味では、商業施設には“公共の場”に近い側面があると感じています」

事実、キラリナ京王吉祥寺は地域に寄り添った空間であるために、さまざまな工夫を凝らしている。吉祥寺の街中にある人気店をテナントに入れていたり、店舗を持つにはハードルが高いけれど挑戦してみたいという地域のショップに、ポップアップスペースを提供したり。吉祥寺のプレイヤーたちとともに、街をいっそう盛り上げていきたいという思いがあるのだ。

「ともすると、商業施設はその街で必要以上に“強く”見えてしまいがちな存在です。だからこそ街とは、うまく交わっていきたい。そうした空間づくりの一環として、キラリナ京王吉祥寺は無料で休憩できる場にも力を入れているんです。4階のキラリナ広場からは吉祥寺の北側を一望できるし、屋上のキラリナテラスは緑豊かでとても心地よく過ごせます」

平日でも賑わう4階キラリナ広場

9階屋上のキラリナテラス。ビールの原料となるホップも育てておりクラフトビールも醸造予定

そうした施設の方向性を考え、店舗運営のサポートや販売促進の企画を担当しているのが、石塚さんの所属するSC営業部だ。20~30代を中心とした若いチームで、キラリナ京王吉祥寺のほか、「フレンテ笹塚」や2022年3月に開業したばかりの新施設「ミカン下北」なども手掛けている。

「施設のサービス向上につながる施策については、事務所内の誰もが自由に声をあげられます。今回のトレルナも、サービス自体が共創型実証実験ということで、ほかの施設なら『本稼働する保証はあるのか』『試験段階のものをお客様に提供していいのか』といった懸念の声が出てきたかもしれません。でも、キラリナ京王吉祥寺ならそうしたハードルを飛び越えて、お客様に快適に過ごしていただくためのアイディアをどんどん実践できる風土があります」

施設のいたるところに吉祥寺の地域密着型の企画を実施。写真は吉祥寺に推しスポットを共有し合う掲示板

さらなる過ごしやすいトイレを目指して

トレルナは、生理を見つめ直し、月経のある方に安心を提供するサービスだ。でも、商業施設を訪れるお客様は、多種多様。老若男女を問わず、さまざまな方に心地よく過ごしてもらうため、キラリナ京王吉祥寺ではほかにどんな取り組みをしているのだろうか。

「女性用に限らず、お手洗いにはスポットを当てていると思います。たとえばキッズ向けトイレやベビールーム、オストメイト向けの設備など、施設規模のわりには多様なお手洗いが充実しているのではないでしょうか。また、トレルナの採用後、、事務所内で『男性はこういう困りごとってないのかな?』という話題が上がりました。そこでいろいろ調べてみると、前立腺がん・膀胱がん患者のかたを中心に、失禁などに備えてオムツを当てている男性がいる。それなのに、男性用トイレにはサニタリーボックスがないことがわかったんです。ごみ箱を設置するだけで助かる方がいるかもしれないのなら試してみようと、つい先日、男性用サニタリーボックスの試験運用が決まりました。お手洗いというと、つい女性用にばかり力を注ぎがちなのですが、さまざまな方に平等に取り組みを進めていければと考えています」

ベビールームにはオムツ換え台や授乳個室も設置

給湯器も備えているのでミルクをつくることもできる

ショッピングセンターやデパートといえば、欲しいものが手に入る場所というイメージだった。施設側も、そこで過ごす時間の楽しさをアピールし続けてきただろう。しかし、これからの商業施設を考えるとき、新しく大切にしたいのは「誰かの困りごとに寄り添う」意識なのかもしれない。石塚さんの言葉の端々にも、そうした気概がにじんでいる。

「“困りごとからスタートする施設づくり”という視点は、とてもいいですね。実際、さまざまな方が来る場所だからこそ、困っている方へのアプローチは大切にしたいと考えてきました。『ここに来たら足りないものが手に入る』『悩みが解決する』というのは、非常に素敵な来店のきっかけになりえます。『ここに来ればやりたいことが見つかる』『心の余白が埋まる』なんてところまでいけたら、さらにいい。お客様と近い場所にいる店舗スタッフさんから声を吸い上げたり、トレルナのように試験段階のサービスも取り入れたりしながら、みなさまの快適を追求していきたいですね。その先で施設のファンが増えていったら、こんなにうれしいことはありません」

心地よい場づくりのひとつの答えとして、今回キラリナ京王吉祥寺が選んだのはトレルナだった。さて、次はどんなツールや仕組みが、キラリナ京王吉祥寺でお客様を迎えるのだろうか。

(インフォメーション)

 

キラリナ京王吉祥寺

住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町2-1-25

階層:地下2階~地上9階

開業日:2014年4月23日

アクセス:京王井の頭線・JR線 吉祥寺駅直結
施設ホームページ:https://www.kirarinakeiokichijoji.jp/

 

トレルナ

トイレットペーパー同様、生理用ナプキンについてもさまざまな施設で無償提供できるようにしたい──そんな想いから生まれたのが「トレルナ」。スマホアプリ(ベータ版)とトイレ内のディスペンサーが連動することで、ナプキンが無料で受け取れるサービスです。トレルナが設置されているトイレ個室に入るとデジタルサイネージに一定時間のお知らせ映像が表示され、持続的にサービスを提供できる仕組みも実施予定。今後は利用者が「有効な情報を受け取る」ことができる広告モデルを基盤としながら、事業拡張に取り組んでいく。

公式HP:https://nextinnovation-inc.co.jp/service/toreluna

TextSakura Sugawara PhotoKaho Okazaki EditEisuke Onda

このページをシェアする

YOUR VOICE

あなたの生活において「しかたない」と
諦めかけていること、聞かせてください。
今後の活動に役立ててまいります。

は#しかたなくない
{{voice}}

ツイートする