TOPICSCOLLABORATION

「自分のふつうで生きられないことは、しかたなくない」FMFS Inc. インタビュー

中川一未

株式会社FMFS代表
自身の経験をきっかけに、無意識のうちに当たり前となっている価値観や偏見に対して“問い”を投げかけていきたいという思いから、輸入企画商社勤務を経て株式会社FMFSを2021年5月創業。経営者であると同時に2児の母として、自身も考え行動していくことを通じ、人それぞれ価値観や「あなたの普通 わたしの普通」を許容する世の中になるようプロダクトや活動を通じて世の中にアプローチしていく。

ミズタ ユウジ

アーティスト、アートディレクター
多摩美術大学染織デザイン科織専攻。卒業後、自身のブランド「textile+music」を立ち上げ、オリジナル生地・製品の販売を開始。デザイナー / アートディレクターとして、パブリックアートの制作、企業やアーティストとのコラボレーション、デザイン提供なども行う。美術家としては、国内外で個展を開催。近年はテキスタイルを用いた表現のほか、絵画や映像、対話を用いた実験的なパフォーマンスなど、様々な媒体の作品を制作している。
www.yujimizuta.com

2022年7月、「#しかたなくない」プロジェクトとのコラボレーション企画を行った、ライフデザインブランド「FEEL MY FOOTSTEPS」。アートやジェンダーレスな価値観を、ソックスという身近なプロダクトを通じて軽やかに世の中に広めています。そもそもの接点は、同ブランドを手掛けるFMFS代表の中川さんが「#しかたなくない」マガジン創刊号に共感してくださり、連絡をくれたことからでした。ビジネスを通して常識や固定観念にとらわれず、自分のふつうで生きられる社会を目指すFMFS代表の中川さんとブランドのアートディレクターであるミズタさんのお二人にお話を伺いました。

女性としての生きづらさを感じなくていい社会をめざして

ー「FEEL MY FOOTSTEPS」は中川さんが立ち上げた会社であるFMFS(フムフス)のブランドですね。まずは会社を起こした経緯からお伺いできますか?

 

中川:FMFSは、女性やジェンダーレスをテーマとしたプロダクトの開発、販売を事業の柱にしています。私はシスジェンダー女性(以下、女性)としてジェンダー役割や規範内で生きてきたなかで、世間のいう「男女平等」という言葉は、男性社会の中の男性目線から語られる平等なんだろうなとずっと感じてきました。たとえば生理の問題。男性社会の中で女性が頑張りたいなら、たとえ生理で体調がすぐれない日でも働くのが当然だと思われています。さすがに最近はそれなりにましになってきたとは思いますが、まだまだ平等という言葉の認識は正しくなっていないように感じます。その人ががそのままであり続ける姿を当たり前のこととして、もっと生きやすい社会にしていかなくてはいけない。それをビジネスで軽やかに提示していきたいという思いがあり、FMFSの立ち上げに至りました。

ー女性が社長というのは、まだまだ珍しがられることが多いですか?

 

中川:私は結婚して子どももいるのですが、ママで社長もしている女性はまだ日本では少ないように感じます。私は仕事が好きで、キャリアを諦めたくなかった。でも女性は、何かを諦めなくてはならないことが多いですよね。キャリアを優先したいなら結婚や子どもを、家庭を優先したいならキャリアを。全部欲しいといえば世間からはそんなのは「わがまま」だととがめられる。男性は全部を得ているのに、女性がなんで同じようにしてはいけないのでしょう。脈々と続く歴史の中で、男性が核となって築き上げてきたジェンダーのあり方で物事が進んでいることが多すぎる。きっと女性軸で考えられてきたら、まったく別の解決方法があっただろうと思うことがたくさんありますから。結婚して子どももいて、会社経営までやれている女性がまだまだ少ないのも、社会のあり方の問題だと思います。私は自らが社長を務めることで、身をもって体現していきたいと思っています。少なくとも娘が世の中で活躍し始めるであろうときまでに、今の私が拭いきれていない「女性としての生きづらさ」を感じなくていい時代になっていてほしいです。

ー男女の役割の話でいえば、家事や育児の役割分担は女性がして当然といったジェンダーバイアスもまだまだ根強くありますよね。

 

中川:私も仕事終わりにヘトヘトになり家族に夕食を作ることができなかったときに、自分を責めてしまったことがありました。そのとき、私自身も無意識にステレオタイプな価値観をもっていたことに気がつきました。個人レベルでもそうですが、社会としても女性が当たり前に働き続けられる環境整備や価値観のアップデートがまだされていないですよね。だからこそ、まずは自分の会社で働いている人たちが、ジェンダーバイアスを感じずにすむ働き方ができるようにはしたいと思っています。

自然と対話が生まれるソックスブランド

ーではここからブランドの話をお伺いします。「FEEL MY FOOTSTEPS」はどんなブランドなのでしょうか?

 

ミズタ:ブランド名が示す通り、「足音を感じて」というコンセプトをもとにつくられた靴下ブランドです。自分と他者、お互いがいない限り繋がれないことを伝えるブランドにしたいと考えて「誰かの足音を感じてほしい」という願いを込めてネーミングしました。あらゆるものごとの間で変容する日々をしなやかに楽しめるように、一人ひとりの感覚に寄り添える遊び心とメッセージを忍ばせたレッグウェアを展開しています。人それぞれ考え方が違えど、互いの感じていることを察することによって何かおもしろいことが生まれるのではないかと思うんです。たとえば、僕が今身につけているフットバンドには「What do you love most about me?」というメッセージが添えられています。「私のどこが一番好きなの?」ってある意味強い言葉ですよね。でも、それを身につけていると、僕もその言葉を見ることができるし、目の前にいる相手も見ることができる。そして見た瞬間に、考えると思うんです。「自分のここが好きかも」「あなたのそこが好きかも」って。なにもしゃべられなくても、そこには対話が生まれると思っています。

中川:テキスタイルアーティストであるミズタさんにアートディレクターとして参加していただくことで、ジェンダーレスとアートを基盤としたブランドに仕上がりました。ジェンダーに限らず、人種や言語・年齢といった曖昧な価値観や境界線にとらわれずに誰もが身に着けることができるアイテムを目指しています。アートというと敷居が高いイメージがありますが、アーティストが考えたアイテムも靴下なら気軽に取り入れることができる。だからこそ、履いていて高揚感があるようなブランドになっていると思います。

「FEEL MY FOOTSTEPS」の靴下

ーさきほど中川さんから男女の不平等さについての違和感を伺っていたので、ブランドとしてジェンダーレスを提示する意味合いの強さを更に感じました。ミズタさんはジェンダーレスについてどうお考えですか?

 

ミズタ:自分自身はセクシュアリティがゲイなので、比較的ジェンダーへの意識は敏感だったと思います。男性・女性という2つに分けて物事を考える必要性はあまりないだろうと思っています。ただ、ゲイというと苦労してきたんだろうと思われがちなのですが、僕自身はゲイであることで差別を受けてこなかったんです。デザイン関係という理解のある業界で働いているということもあると思いますが、僕がカミングアウトしていても何も気にしないという人がまわりに多かったので。恵まれた環境にいたこともあり、セクシュアリティに対してはあまり悩んだことはありません。でも、LGBTQ+の現状や差別などについて知り、いろんな環境で悩んでいる人の話を聞くと、こんな自分だからこそ世の中に対してできることもあるのかなと今では考えるようになっています。

 

中川:育った環境によって自分のものさしができるのは自然なことだと思います。だけど、世の中を知っていくなかで、それがプラスであれマイナスであれ、どう考え、どう受け止め、どう行動していくかが大事なのだと思います。FMFS Inc.は「Your normal My normal」というコーポレートメッセージを掲げているのですが、ミズタさんの話を聞いてそれに通ずるものがあると思いました。人それぞれ価値観は違って当たり前です。誰かの価値観に縛られることなく、自分の価値観を押し付けることなく、人それぞれのふつうを受け入れられる世の中になっていってほしい。すべての価値観が受け入れられなくても、お互いに対話しながら理解しあえる世の中になるといいなと思っています。

「#しかたなくない」とのコラボで得た気づき

ー7月に「#しかたなくない」プロジェクトとの共同企画として行われた等身大ポスター展「FEEL FREE」も、いろいろな人の自由な価値観が表現されていたものだったと思います。イベントについても改めて説明していただけますか?

 

中川:宮下パークで行った展示ですね。私は会社を起こしたときから、近い価値観を持つ方々と一緒に何かをやりたいと漠然と考えていました。そこで「#しかたなくない」のみなさんにお声がけさせていただき、実現したのが「FEEL FREE」でした。参加はまず宮下パーク2Fの吹き抜け広場に設置したフォトスポットで全身写真を撮影します。さらに参加者自身が日頃からしかたないと我慢しているけど、本当はしかたなくない「一歩先の未来」をその場で記入していただき、隣接するギャラリーに合わせて展示していくという内容でした。多種多様な方のリアルな声が集まる展示となり、充実したイベントになりました。

宮下パークで開催したイベント「FEEL FREE」の様子。たくさんの人の写真と声が展示されました。

ー参加者のみなさんからどのような「#しかたなくない」が集まりましたか?

 

中川:直前の6月がプライド月間だったこともあり、同性婚を認めてほしいというメッセージは多かったです。ほかにも夫婦別姓の話もたくさん出ていました。あとはもっと広いテーマですが、自分らしさを大切にしたいという方も。こうやってイベントにすることで、直接いろんな方と会話ができたということもよかったですね。撮影は一人の方もいれば、大切な人たちと一緒の方も多くいました。みなさんの多様なコミュニケーションのあり方を間近で見られてこちらまで嬉しくなりました。

宮下パークで開催したイベント「FEEL FREE」の様子。

ーミズタさんも会場にはいらっしゃったんですか?

 

ミズタ:僕は参加者としてパートナーと一緒に会場に行きました。うちのパートナーはイギリス人なのですが、まじめかつ奥手なので、あまりこういうイベントに行きたがるタイプではないんです。でも、会場の活気に興奮したのか、写真撮影の際も積極的に親密なポージングをとってくれたりとかなり楽しんでくれていました。僕としてはびっくりしましたが。

 

中川:パートナーさんもそうですが、私自身としては「ミズタさんのこんな表情みたことない!」と思いました。お二人とも幸せそうで、私まで幸せな気持ちになりました。

ミズタさんとパートナーさんの当日の写真

ーミズタさんとパートナーさんは「#しかたなくない」と思うことについては何を書かれましたか?

 

ミズタ:プライベートなことなのですが、僕とパートナーは11月に結婚をするんです。イギリス大使館で。彼はいつかイギリスに帰るのだろうと思っていたので、プロポーズされたときは驚きましたが、今はとても幸せを感じながら指輪やスーツのことなど、いろいろと準備を進めています。なので「同性婚」のことについてですね。「日本で同性婚が認められないのはしかたなくない」。日本で同性カップルが結婚できないのは本当におかしな話だと思います。僕らの場合、イギリスは同性婚をすでに実現している国なので、イギリスに行けば結婚ができます。でも、イギリスの法律の下では婚姻関係は認められても、日本の法律では認められていない。つまり日本にいるかぎり結局僕たちは家族にはなれないのが実情です。パートナーシップ制度がある自治体は増えてきましたが、それも法的拘束力があるわけではありません。同性カップルに結婚が認められていないのは、やはり不平等だと思います。

「私は私のままでいい」と思ってほしい

ー中川さんとミズタさんそれぞれが社会に対して思う課題がある中で、それに寄り添うブランドが「FEEL MY FOOTSTEPS」なのだと感じました。では最後に、ブランドとしてお二人が考える「#しかたなくない」を教えてください。

 

中川:「自分のふつうで生きられないことは、しかたなくない」ということでしょうか。個々が違うのは当たり前で、みんな違ってみんないいんですよね。それでも、空気を読んでしまい自分の意見を言えないという人が多いように感じます。自分と同意見を見つけたら強くなれるけど、その一方で「これって私だけかもしれない」と思うと黙ってしまう。答え合わせができない状態だと何も言わないという人をみると、もっと「私はこう思っています」ということを臆せず言っていいんだよ、と思います。他人にどう思われるかを気にする必要がなく、自分らしさを貫ける社会であってほしい。

 

ミズタ:「私のふつう」と「あなたのふつう」をつなげるのが対話なんですよね。「FEEL MY FOOTSTEPS」を通して、そのことをこれからもゆるやかに伝えていけたらと思います。ブランドが「私は私のままでいいんだ」と思えるきっかけになってくれれば嬉しいです。

TextDaisuke Watanuki PhotoKayo Sekiguchi EditRiku(REING)

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