2022年1月12日に開催したオリエンテーションにて行われた、me and youの竹中万季さんと野村由芽さん、fermataの中村寛子さん、REINGのユリ・アボさんによる #しかたなくない アイデア会議。『#しかたなくないマガジン vol.00』の制作の裏側から、今後期待するプロジェクトアイデアまでトークしました。
ユリ・アボ(以下、アボ):本日モデレーターを務めさせていただきます、株式会社NEWPEACE/REINGのプロデューサーをしております、ユリ・アボと申します。よろしくお願いいたします。REINGは普段クリエイティブの力で、ジェンダーの視点や小さな違和感というものを可視化していく活動をしています。#しかたなくないプロジェクトのローンチにあたっては、皆さんの手元にある『#しかたなくないマガジン』の企画制作でご協力させていただきました。この雑誌を作るにあたって、今日来て頂いております、fermataさんとme and youさんにご協力いただきました。今日はこのメンバーで「#しかたなくない」を発展させていける、ミニ編集会議のようにお話をさせていただけたらなと思っております。
竹中万季(以下、竹中):me and youの竹中万季と申します。よろしくお願いいたします。この #しかたなくないプロジェクトでは、雑誌の編集に携わらせていただきました。活動としては、元々株式会社CINRAという会社で、「自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティShe is」 というメディアを二人で2017年に立ち上げて運営していました。4月に二人で独立して、me and you という会社を始めております。今メディアなども立ち上げ準備中で、この「#しかたなくない」関連でいうと、 PodcastとJ-WAVEさんで配信している音声配信番組で『わたしたちのスリープオーバー』という性にまつわるモヤモヤなどをお話する番組も行っております。
野村由芽(以下、野村):me and youの野村由芽です、よろしくお願いいたします。先ほど竹中からもあったように、もともとShe is というメディアを運営していまして。また場所を継続して作っていきたいなって思っているので、me and youとして今新しいメディア、コミュニティの立ち上げを準備しています。She is の時は、女性と一言で言ってもさまざまな個人が存在することについて考えるために、声を集める場所をつくっていたんです。立ち上げの理由は「女性らしく」とか「こういう風に生きなければいけない」とか、属性で生き方を決められる事に違和感があったっていうのがあって、運営を進めていく上でそれは女性だけではなくて様々な個人にあることだと気づいて、個人の声と私たちが生きる社会の問題の両方に目を向けるようなメディア、コミュニティの立ち上げを準備中です。
中村寛子(以下、中村):初めまして、fermata株式会社の中村寛子と申します。弊社は、2019年に立ち上がり「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」ということをビジョンに掲げております。その中でフェムテックといわれる、世界中で生まれてる女性の心身の課題を解決する新しい選択肢をお届けしています。弊社は乃木坂に店舗を持っており、そこで月経からセクシャルウェルネスにまつわるアイテムを色々と置かせて頂いてることもあり、#しかたなくないマガジンではそちらのご案内と、あと合わせてセクシャルウェルネス、実際私たちが体験したお客様とのエピソードなども書かせていただきました。
マガジン制作を通して生まれた発見
アボ:ありがとうございます、よろしくお願いいたします。今日は3つの大きなテーマを掲げておりますので、順番に話していければなと思います。
1つ目のテーマがこちらです。「マガジン制作を通して生まれた発見」というところで、今回の雑誌の制作においてはme and you さんの他にもNEUT Magazineさんだったりとかフリーの編集者の方達を交えて、どんな目次を作ろうかとか、どういうテーマを一番最初に掲げようかというところから入っていただいていると思うんですね。雑誌の反響でもこういった「モノがあるから話しやすかった」とか、当事者女性だけではない人たちも含めて会話ができるような、可視化されたものを作っていくということに意義を感じてくださる方がすごく多くいらっしゃいました。ぜひマガジンの企画編集から入っていただいたme and youさんの方から、何か印象的だった部分があればお伺いできればなと思います。
竹中:はい、ありがとうございます。今回は企画の部分から、ご一緒にブレストに入らせていただいて、本当に作る段階も「しかたなくない」を大事に作っていったことが印象的でしたREINGさんが全体を取りまとめて進行してくださっている中で、ディスカッションの機会も何回かありましたよね。
アボ:そうですね、全員で集まって、オンラインでお話しできたと思います。
竹中:はい。デザイナーさんの方も含め、本当にいろんな方とオンラインでお話ししましたね。目次より手前の冒頭の部分では、そもそも「しかたないってなんなんだろう?」という話から生まれていて、REINGのRIKUさんとも「しかたないの語源についてちょっと調べましょう」みたいなやりとりを何回も重ねたりとか。そもそもの立ち返りみたいなのをすごくしていたのが印象的です。そういうことを考える過程においても、自分たちが日常的にこんなにもたくさんのしかたなくないを抱えていたんだなっていうのにすごく気付かされたっていうのが、制作を通して感じたこととして本当に大きくって。日常的に「あれって、しかたなくないよね」って口癖みたいになってしまうような感じでした。
アボ:確かに、「しかたない」っていう言葉。ローンチの前に「しかたないよ」ってめっちゃ言ってるって思って。でもまだローンチ前だから「それ、しかたなくない」って言えなかったです(笑)
コンテンツでは、性と体のトピックだけではなくて、そもそも我慢って何だろう?っていうのを文化人類学者の方に入っていただいたりとか、我慢の先をどういう風に描いていくかってところで、CDとか映画とかのコンテンツとかも入っていたので、そういうページの作り方っていうのは私たちもすごく勉強になりました。由芽さんはいかがですか?
野村:今の話に続けると、しかたなくないってなんだろう?を考える時に、多分しかたなくないに気づく前に、なんで?って問うっていうことが先にくるんだろうなっていうのがありましたね。違和感を押し込めないところからはじまるのかもしれないなと感じました。「『我慢』ってなんだろう?」っていう松村圭一郎さんの記事では、(今日いらっしゃらない恩田さんという編集者の方が作られたんですけど)、エチオピア南部の国境地帯に暮らすダサネッチの方々は自分たちの欲望をすごく出していて、一見仲が悪く見えるんだけれども、そういうふうに欲望が表ざたになるとみんなで対処可能なものになる、みたいな話がすごい印象的でしたね。私たちもme and you で、話し始めるということをすごく大事にしているんです。話さないとどうしても話しちゃいけない事っていう風になっていってしまうので。
自分たちが担当したものの中では、橘さんっていう逗子のお花屋さんの記事があるんですけれども、一般的にはお客さんを相手にする商売となると、働いている人に我慢が強いられてしまうような場面もあったのかなっていう風に思うんです。橘さんの店主の方はお子さんを育てられているので、閉店時間を短くしていたら、最初は「閉まるのが早いからなかなか行けない」ってお客さんに言われたんだけれど、理由を話したら、「それはしょうがないね」といって頂けたっていう話を伺いました。「お客さんだから」ということだけではなく、顔が見える一人一人と話すことを心がけると、カテゴリーとか属性ってものがほどけていくのかもしれないと感じます。橘さんは、一人一人を見るって事をすごくされてるのが印象的だなと思いました。私もそういう姿勢でありたいです。
アボ:ね。やっていきたいし、めちゃくちゃ無理をしないってことをすごくおっしゃってましたよね。寛子さんも乃木坂の店舗で実際に接客とかもされていたかと思うので、橘さんのエピソードと繋がるところもあるのかなと。
2つ目のテーマ「 身の回りの『#しかたなくない』あれこれ」というところで、起業されていたりと本当に多才に活動されてるかと思うんですけど、「しかたなくない」って思うシーンってどんな時にあったりしますか?
身の回りの「しかたなくない」あれこれ
中村:私めちゃくちゃあります。元々この12のテーマの中でも、そのピルへのハードルが高いのは仕方なくないっていう点も私もまさに実体験があり。低用量ピルを服用してたんですけど、購入しに行くのにやっぱり時間が全然合わなくて有給取って行ったりとか、お昼休みにランチ食べずにタクシー飛ばしてったりとか。でもそれをなぜか言ってはいけないって、それは仕方ない・我慢するものだってやっぱり思ってた部分が私は結構自分のウェルネスに興味関心持ったスタートきっかけだったりもしたので、そこはすごく感じるなあというのと。あと今おっしゃってくださったように、やはり多くのお客様と接する中で「こんなモヤモヤがあるんだけど、我慢しなきゃいけないんだよね」って結構言われることがあります。
アボ:お客様の方から?
中村:そうです。例えば「すごくデリケートゾーンが乾燥して痒いんだけどしかたないよね」みたいな。それで、でも多分何かしらモヤモヤがあるから弊社のお店に来て、ちょっとでも話をして、何かしら解決策、新しい選択肢があるのならばトライアルしてみたいなというようなお客様が多いなというイメージがあります。
アボ:そもそも、その「しかたないな」という会話が生まれること自体が当たり前ではないという風に思うんですが、その辺りは何かトリガーってあるんですか?
中村:そうですね、店頭ではわたしたちfermataメンバーが接客をさせていただくんですが、私たちもいちユーザーであるというところはすごく大事にしたいなぁと思っていて。なのでお客様がいわれた悩みに対して私たちも感じていたらそれにはすごく共感もしますし、あとは言いづらいっていうところもたくさんあるなって思っていて。一回弊社が百貨店でポップアップをやらせていただいた時に、みなさんが感じる心身のモヤモヤとか悩みをポストカードに印刷をして装飾したことがあるんですね。そしたらお客様がきて、それを指差して「私これで悩んでます」っていう風に来たことがあって。なるほど、自分で言葉にするのはすごくハードルが高いけれど、装飾という形で少しでもモヤモヤが言語化されていると、指をさして勇気を出してシェアしてくださるお客様もいらっしゃるんだ、と気づきがありました。
アボ:今日の会場もそうですけど結構ジェンダーの本とか、セクシャルウェルネスの本とか、そういうものが指差しながら誰かとシェアできるっていうのがすごくモノがある力だなっていうのは感じていて。どうですか、お二人の方は「#しかたなくない」って最近思ったこと、ありますか?
竹中:「#しかたなくない」の話はめちゃくちゃ二人でしていて。この雑誌の中でも、二人で話しているページもありますよね。
アボ:そうですね、雑誌の中でme and youさんに実際に寄稿していただいたコラムがございます。
竹中:そこでも自分たちが、どんなしかたなくないって話をしてきたかだったりとか、話し始めてみることの大事さみたいなことについてもちょっとお話してたんですけども。でもそれでいうと、PMSの話とかかな。
野村:そうですね、対談にも書いてあることになってしまうんですけど。数年前はPMS って言葉が一般的ではなかったなという実感があって知らなかったんです。本当に生理前になると、動悸もするし大丈夫かな?って。理由が全然分からなくて、わかんないけどだるい、辛いみたいなことを言ったら、表参道ヒルズの地下で万季ちゃんが「それはねPMSって言うんだよ」みたいなことを言ってくれて。そういう言葉があるんだってことは、きっといろんな人が抱えていることなんだって風に思って。(万季ちゃんに)話したことでしかたなくなったなっていう、自分の中でのとっておきの経験がありました。
アボ:「#しかたなくない」って言葉自体も結構発明だなって、すごく思っていて。しかたないですらないことってたくさんあって。しかたないとさえ思わないで流してしまったこととか。そのまま重要視しないで流してしまったなっていうのは、人の言葉も自分のこともそうなんですけど、結構あるような気がしていて。「#しかたなくない」っていうこの合言葉を使うと、ちょっと一回話してみようとか、意識的になれるっていう意味でもすごく、すごくいい言葉だなって思っています。
「#しかたなくない」で実施したいアイデア
アボ:最後のテーマ「『#しかたなくない』で実施したいアイデア」になってくるんですけれども、「#しかたなくない」のアイデア自体は皆さんが本当に一人一人お持ちだと思いますし、それこそ話していくってことがまず第一歩だなという風にも思うんですけど。このプロジェクト自体は社会に実装していくっていうアクションを目指していますし、伴っていく意義があると思います。なので「#しかたなくない」で実施してみたいなとか、妄想でもいいですけど、例えば”渋谷の街を使って…”とか何かのメディアを使って何か実施していけるアイディアを伺いたいなと思うんですが。
中村:そうですね、事前打ち合わせの時に「これやりたいんだけどどう思います?」っていうのを先に言ってしまったんですけども(笑)第一部で石井さんがおっしゃっていた、このプロジェクトを立ち上げられた時の目的の一つ、「対話」にも関わってくると思うんですけれども。私たちも女性の健康課題に対して取り組んでいる中で、話したい人もいれば話したくない人もいていろんな選択肢を持ってていいと思うんですが、ただそれに対してなぜ話す時ってやけにセミクローズドで、誰にも言っちゃいけないみたいなところが多いんですよね。私がやりたいなーって言ってたのが、渋谷区の、すごくスペシフィックで恐縮なんですけど、道玄坂の百軒店でですね、パブクローリーならぬ、お店に色々協力していただいてこのお店では今生理について話をしているよ、このお店では今妊活の話をしているよみたいなのがリアルタイムで分かりながら、チケット制で皆で自分が行きたいところ、自分が少しでも興味関心があって話したいところ、または人の話を聞きたいところ、または友達を見つけたいところ、みたいなところを回りながら話したい人は話す、傾聴したい人は傾聴するっていうようなことをやりたいんですよね。どうですかねっていうのをずっと言ってたっていうことですよね、私が(笑)
野村:その話を伺ってすごいいいなと思いました。私がやりたいなって思ってることだと、例えば映画をオールナイトで観た時って、”ここにいる全ての人と話したい”みたいな気持ちになるじゃないですか。”こんなに趣味が合う人と出会ってるのにここで別れるのか!”みたいな気持ち。そういう映画を上映した後にみんなとお茶したい。寛子さんが話してたように、「せーの」で話すと結構話しづらいけど、本や映画をきっかけに話せることってありますよね。映画は観るのに時間を使うからその時間で身体に染み込んだものを話してみるっていう体験は、いいんじゃないかと思います。
竹中:お酒があったりするのっていいですよね。初対面の人とっていうのがすごいいいなって思っていて。親しい関係だから話せることって確かに存在してると思うんですけど、一方でこのテーマで自分の周りの人には言えないとか、友達とか家族には言えないけど話したいっていう時に、意外と行き場がないのではと思うことが結構あって。SNSにもちょっと書けないし、病院もすごい大事だけれど病院の先生に話すのは今はちょっと違うかも、そういう時にそこにちょっと行って一言話してみて、そうしたらまた次に行く場所が見つかるかもって思いました。すごく参加したいです、お客さんとしても。
アボ:新しい第●弾プロジェクトとかで渋谷区のみなさんのご協力のもとできたらすごいのかもしれないですね。傾聴もできるっていうところが結構大事だなと思いました。REINGをやっていて思うんですけど、話したい方が話せる社会になってきていると思うし、いろんなツールを使って一人で発信することはできるんだけど、やっぱりそれを聞きたいとか、聞いた上で考えてから何かをぜひまた自分が誰かに伝えてみたいというリレーだと思っています。
今回このプロジェクトで雑誌を作るにあたってクリエイティブの面ですごく気をつけていたのが、「必ずしもオープンにしなくても大丈夫だよ」という空気だったりとか、「だけどタブーにして誰も話せないような抑圧的なままにはおきたくないよね」っていうところなんです。まずは毎日会う方とか、もしくは初めて会う人と話せる場とか、そういうモノがどんどん開発されていくといいし、このプロジェクトとしてもそういったものを求めていけるようにすごく頑張りたいなと改めて思いました。本当に短い時間でこのトークセッションは終わりなんですけども、今後ともme and youさん、fermataさんの活動もぜひフォローしていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。