TOPICSINTERVIEW

自分を大切にして、周りの人とも支え合うために。和田彩花・みたらし加奈・Kanに聞く、お互いを労るケアの方法。

制度や社会通念、あるいは誰かとの関わりのなかで、自分の心や身体を

後回しにしてしまう経験がある人も少なくないのではないでしょうか。

そんなとき苦しさとどう向き合い、自分を労っていけるとよいか、

和田彩花さん、みたらし加奈さん、Kanさんにお話を伺いました。

「一つの選択肢を軽視するということは、すべての選択肢を軽視することにもつながると思っています」(みたらし加奈)

みたらし加奈

臨床心理士。SNSを通して、精神疾患についての認知を広める活動を行っている。NPO法人「mimosas(ミモザ)」副代表理事。著書に『マインドトーク―あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)。女性のパートナーと共にYouTubeチャンネル「わがしChannel」も配信中。

─みなさんは、自分の感じ方や考え方を押し込めねばならない「我慢」の経験として、どんなものを思い浮かべますか?

 

Kan:イギリスで暮らす同性のパートナーと3年間遠距離恋愛をしていたんですけど、この1年半、コロナの影響でずっと会えなかったんです。今年イギリスに移住して結婚しましたが、制度の問題によって、日本での結婚が検討できなかったことはものすごく苦しかったですね。

 

みたらし:友人であるKanくんが日本でパートナーと暮らすことを選択肢に入れられなかったのは悔しいですし、私自身も同性のパートナーがいるので、同性婚ができないことや、「LGBT理解推進法」(*1)が通らない現状のなかで、苦しい思いをしてきました。もう一つ私が我慢の経験として思い出すのは、就活のことです。

 

─例えばどのようなことで辛さを感じましたか?

 

みたらし:インターン先で「女の子なのに料理が得意じゃないの?」と仕事に無関係なことを言われたり、苦手なヒールを履かなきゃいけなかったりしたことも辛かったです。就活生として「ヒールを履くことがスタンダード」として教えられた部分もあって、それが採用の結果に影響するかもしれないと感じる場面もありました。そうなるとやはり無理してでも履こうとしてしまいますよね。

 

Kan:就活では、リクルートスーツを着ることなど「こうじゃなきゃだめ」と縛られている感覚がすごく嫌でした。働き始めてから最初の1年間はスーツを着なきゃいけなかったんですけど、僕はスーツを着るときに、自分らしさ以上に「男らしさ」をまとっている感じが辛くて。

 

和田:Kanさんのスーツに対する感覚と似ているかもと思ったのは、アイドルグループにいた頃、あるときから、スカートによって「女らしさ」をまとわされることに違和感を抱いて、衣装のスカートを穿くことに抵抗感があったんです。「女だからこうあるべき」という考え方には不自由さを感じていて、今特に思うのは子どもを持つことについてです。私は子どもを持つことに興味がないのに、「女の子だからいずれ母性が目覚めるよ」と言われることもあるんですよね。周りが結婚や出産に向き合い始めるなかで、自分はみんなと同じようになれないという感覚があるんです。

 

みたらし:私はいつか子どもを産みたいなと考えている立場ですが、「子どもを産まない」という思いを社会が選択肢の一つとして認めないことで、「子どもを産みたい」という気持ちも、「普通」とされている流れを後押しする選択になってしまうことが嫌だなと思います。一つの選択肢を軽視するということは、すべての選択肢を軽視することにもつながると思っています。同性パートナーが共に暮らしていくための制度上の選択肢が少ないなかで、SNSで友人の結婚や出産についての投稿を見かけると、それ自体は喜ばしいことで祝福したいのに、どこかで「いいよね、結婚や出産を自由に選べる権利があって」と苦しくなってしまう自分もいるんです。だから和田さんの話を聞きながらたくさん頷いてしまいました。

「ジェンダー規範にとらわれていないつもりでいても、そういう思い込みがあるから、注意しないといけない」(和田彩花)

和田彩花

1994年8月1日生まれ。群馬県出身。2010年、Hello!Projectよりスマイレージのメンバーとしてデビュー。大学院で美術を学び、2018年にグループ卒業後ソロとなり、全て自らの作詞による楽曲を次々と発表。経済誌「For bes JAPAN」より“世界に多大な影響を与える30歳未満の30人”に選出されるなど、メディアでの発信も注目を集めている。

─選択肢のない状況や、「こうあるべき」という価値観が当然のものとされている環境にいると、我慢をしていることに気づくのが難しい人もいると思います。みなさんが、自分の我慢に気づいたきっかけのようなものがもしあれば伺いたいです。

 

みたらし:私はいわゆる「三高」(*2)とカテゴライズされる男性と結婚することが自分の幸せだと信じ込んでいた時期がありました。だから今のパートナーのMikiと出会ったときも、「女の子同士で付き合う場合、どっちが『女』として家事をするの?」って本気で思っていたんです。でもMikiから「できる方がするんじゃない」と言われて、自分がジェンダーロールにすごくとらわれていたことに初めて気づきました。そこであらためてフェミニズムを学んだことで、自分が何に縛られていたのかだんだん理解していったんです。

 

─Mikiさんからの影響が大きかったんですね。

 

みたらし:ただ、同性同士のパートナーシップだからといって、必ずしもジェンダーロールが取り払われるかというとそうでもなくて、表現したい性によって性役割が決まることはありがちです。

 

Kan:「こういう行動をしている自分は男役?女役?」って考えてしまうことが僕もあります。ジェンダー規範を取り払おうとするんだけど、内在化してしまっている部分があるなと思います。

 

─和田さんはご自身がジェンダー規範を内在化していたと感じた経験はありますか?

 

和田:最近、私と同じように子どもを持つことを考えていない友達から、「専業主婦になりたい」と聞いて。腑に落ちずにいたら、その子は、子どもを持たないで専業主婦になりたいと言うんです。専業主婦になる=子どもを持つことだと、私は勝手に考えていたんですよね。だから友達にはその場で謝ったんですけど、ジェンダー規範にとらわれていないつもりでいても、そういう思い込みがあるから、注意しないといけないなと思います。

「自分の人生を自分で良しとしたいし、今は周りに対してもあらためてそう言いたい」(和田彩花)

─さまざまな外圧の存在に気づいていても、面倒を嫌ったり、場の空気に飲まれたりして、違和感を言葉にすることに躊躇する人もいると思います。そうした状況で「しかたなくない」と伝えるためには、どうしたらいいと思いますか。

 

和田:最近友達から「やっぱり平凡が一番だよね」と言われたことがあったんです。でも、その「平凡」は家庭や子どもを持つことを前提としていて。私の生き方はそういう人生からは離れているけれど、私は今の人生を楽しんでいて、誇りに思っているから、そう伝えるべきだなと思って「幸せはそれぞれだと思う」と言いました。昔は空気を乱したくない一心で黙っていることが多かったけど、自分の人生を自分で良しとしたいし、今は周りに対してもあらためてそう言いたい気持ちがあるんだと思います。それが自分の人としての尊厳に結びつくような気がしていて。

 

みたらし:和田さんのその姿勢は、周りの人たちにも「自分らしくいていいんだ」ってあとからボディブローみたいにじわじわ効いてくると思うし、それによって救われる人が絶対にいると思います。

 

和田:そっか、言わないと周りの人たちも気づかずにそのまま納得しちゃいますよね。

 

みたらし:私がこんな自分でも大丈夫だと思えるのも、そうやって自分らしく生きている人たちが周りにいてくれてたからなんです。今だって「最高だな」と思える人たちと連帯しているような感覚はいつもあります。だから自分もそういう存在であれたらいいなと思いますね。

 

Kan:何かもやっとしちゃうようなことがあったときに、その場では言えなくても、帰り道に「さっきのはマイクロアグレッション(*3)だったよね」とか、一言言ってくれるだけでも救われます。そういうとき、一人じゃないと思えるし、僕もいていいんだと感じられて、生活していく勇気になります。

「相談する相手には気をつけています。心の距離が近い人に相談することが一番」(Kan)

Kan

2019年、Net fli xの番組『クィア・アイ in Japan!』に出演。自分らしさやセクシュアリティについて発信や講演を行う。2021年9月にイギリスで結婚、現在はイギリス人の夫とロンドンに在住。

─自分らしくいられなかったり、自分を押し込めていると感じたりして辛いとき、どんな風に自分をケアされていますか。

 

和田:私は考え込んでしまうタイプなので、考えごとが溜まったらひとまず全部お母さんに話します。お母さんはすごく味方でいてくれるし、世代は違うけど考え方はZ世代なので(笑)、私が勧めた『82年生まれ、キム・ジヨン』(*4)を読んでくれたりするんです。

 

Kan:僕も結構考え込んじゃう方なんです。僕の場合は何かをしたいと思ってもそれをしたくなくなるような理由を考えちゃうんですよ。例えば「散歩に行きたい」と思っても「突然雨が降ったらどうしよう」とか理由をつけているうちに、最初に思っていた自分のしたいことが隠れてなくなっちゃうことが多いんです。だからそういうときは一回立ち止まって、自分がもともと何をしたかったのか考えるようにしています。

 

─そうしたご自身の考え方のくせにはどのように気づきましたか?

 

Kan:親友に悩み相談をしていたら、「Kanくんの頭のなかにはたくさんの人が住んでるね」と言われて。いろんな考えを自分のなかに住ませて、何をしたいかわからなくなっちゃっているんだなと気づいたんです。それからはもっと自分のやりたいことを優先してあげてもいいのかなと思えました。

 

─素敵な表現ですね。

 

Kan:あと相談する相手には気をつけていて、ジャッジしてこない人や、僕の悩みを矮小化せずに深掘りしてくれる人を選んでいます。友達のなかにも一年に一回会うのが自分にとってベストな人もいれば、毎日会いたい人もいて、心の距離が近い人に相談することが一番だと思っています。

 

和田:私は「友達」という関係にとらわれがちで、相手が何かを打ち明けてくれたら自分もそうしなくちゃいけないように感じたりするんです。でも「この人には話せない」と思う相手もいたときに、どこまで話したらいいか悩むことがあって。それによって傷ついたこともあったなと、今お話を聞いていて気づきました。話したい人にだけ話せばいいし、話す相手として心の距離が近い人を優先するのはいい方法ですね。

 

─みたらしさんは臨床心理士としてセルフケアについてアドバイスをされる立場でもあると思うのですが、ご自身ではどのように対処されていますか。

 

みたらし:みたらし加奈として活動していると、職業柄、ある意味「天使」のような扱いをときどき受けることもあって。自分でもいい子の面ばかり出してしまって、ストレスが最大値まで溜まったときには、自分のなかにいる「リトルモンスター」を大事にしてあげるようにしています。家で赤ちゃんみたいに大声で泣いたりするんですよ。そうするとMikiが私のことを毛布でおくるみみたいにぐるぐる巻きにしてくれる(笑)。心理学用語で「インナーチャイルド」(*5)と言ったりしますけど、私は心のなかの「子どもの部分」を大事にしてあげることがセルフケアとして役に立っていると思います。

 

Kan:自分らしさについての話をするときって、きらきらしたパートに光が当たりがちだと思うんです。でも毒々しいところも含めて自分だから、人に見せなくてもいいけど、「それも自分だよ」って自分で認めてあげることはすごく大事ですよね。僕も自分のなかのリトルモンスターをもっと受け入れてあげようと思いました。

「相手と向き合うことは自分と向き合うことと同義。それを真摯にやっていくことが大切」(みたらし加奈)

─お三方とも身近な人との支え合いを大切にされているように思いましたが、身近な人が辛さを感じていて打ち明けたいときには、どのように話を聞くよう心がけていますか。

 

みたらし:大事なのはその人をそのまま受け止めることですよね。「そのまま」と言っても、人間は自分の見てきた価値観しか知らないから、どこかで自分の理解可能なボックスのなかに入れちゃうこともあると思うんですけど、ボックスのなかに入れている自分にまず気づくことが大切で。自分の尺度で相手をはかっていないかきちんと考え続けている様子は、言葉にしなくても案外相手に伝わります。悩みながら行なう完璧じゃないその作業自体が、相手を思うことなのではないでしょうか。相手と向き合うことは自分と向き合うことと同義だと思っていて、それを真摯にやっていくことが大切だと思います。

 

和田:私は友達から、自分の価値観からすると違和感のある話を聞くと「それはだめじゃない?」と思っちゃう方なんですけど、友達に対してそんな風に思っていいのかなっていう葛藤もすごくあって。でも、今のお話を聞いて、これはあってよかった感情なんだと思えて、ちょっと気持ちがすっとしました。

 

Kan:人から相談を受けるときも、僕は心の距離に気をつけていますね。あまりにも価値観が違いすぎてもやもやしそうになるときや、自分の心の準備ができていないときは、相手からの相談を受けないようにしているんです。それは自分を大切にすることでもあるし、相手を傷つけずに大切にすることでもあると思います。

 

みたらし:個人的には、自分にとって大切な人であれば、もしも周りから見放されそうな理由で傷ついていたとしても、独りにしないことを心がけています。相手のことを思うがゆえに「ここまで踏み込んでいいのかな」とか「迷惑になっちゃうかな」と思ってしまうことってあるじゃないですか。でも人生のなかで自分のことを助けてくれた存在って、その壁を叩き割って、手を取って一緒に逃げてくれる人だったりもする。自分と相手にとって「何が一番大切なことか」を、そのときどきの相手との距離をはかりながら考えていけるといいなと思います。

  • (*1)法案の正式名称は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」

    (*2)高学歴、高収入、高身長のこと。1980年代のバブル景気全盛期に生まれ、流行語になった。

    (*3)意図的かどうかにかかわらず、日常のなかで行われる言動に現れる、偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと。

    (*4)韓国の作家チョ・ナムジュによる小説。女性の人生に当たり前のようにひそむ困難や差別が淡々と描かれ、韓国国内で社会現象に。世界の複数の国と地域でも翻訳が進み、映画化もされた。

    (*5)心の内側にいる子どもの自分。「内なる子ども」と呼ばれることも。また子どものときから続いているくせや行動パターンを指すことも。

Text/Yuri Matsui

Photo/Shiori Ikeno

Edit/Yume Nomura(me and you)

Illustration/Ryosuke Kataoka

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