「この国の性教育が後回しになっているのは #しかたなくない」にフォーカスした実装活動『性共育プロジェクト』。2022年8月にワークショップの最終日を終え、24名の有志による5つのアイデアが発表されました。そして2022年11月、SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYAにてTinder監修の元、愛や性、リレーションシップを学び合う学生向け企画「LOVE GROWS」が始動。今回は、ワークショップで交わされた学生を中心とする参加者たちの等身大の声をお届けします。
価値観の違う私たちは、どのように関係を築いていけるだろうか?
今回のワークショップで設定されたのは、マッチングアプリを使うなかで実際に起こり得る8つのシチュエーション。人権教育としての性教育を発信する金ハリムさんをファシリテーターに迎え、それぞれのシチュエーションごとに設定されたキーワードをヒントに、3名ずつのグループに分かれてそれぞれが良いと考えるコミュニケーションの取り方について意見を交わしました。同じシチュエーションを想定することで、互いのマナーや価値観の違いに気づき、自身の言動を振り返るきっかけとなることを目指しました。
性をテーマに話をすることの身近さが人それぞれ異なる背景を踏まえ、本ワークショップでは安心して臨んでもらえるように、いくつかグラウンドルールを設定しました。
※以下、項目のみ抜粋
・その一 「間違ってたら、すみません」はいらないよ
・その二 自分の変化も他人の変化も受け入れよう
・その三 全てのテーマにおいて当事者がグループにいるという想定で議論をしよう
・その四 答えたくない時の合言葉は「バナナ🍌」
・その五 プログラム中に聞いた個人情報は、授業外で話さないでね
中でも会場の緊張が緩んだのは、答えたくない時に「バナナ」と発するルール。自分の気持ちを他人とシェアすることは大切だけど、それが誰かにとって抱えきれない負担になったり、誰かを傷つけたりするのは最も避けなければなりません。
「初めましての方と性の話をする機会が初めてだったので、話をする相手のセクシュアリティや性的指向について様々な可能性を考えながら話すように意識しました。ただこれは初めましての方だけでなく、すべての人に対して意識をすることだし、今まで話したことがあっても変化しうるもの。これからも意識しようと思います。」
実際に、イベント後に答えていただいたアンケートでは参加者の方からこのような声をもらい、一人一人が自身の言動を振り返りつつ、心理的安全を感じられて話しやすい空間づくりを目指しました。
自分目線の恋愛を、相手目線も考えた恋愛に変えていく
今回出てきた意見の中で印象的だったのは、「相手の気持ちを自分の無意識やバイアスで勝手に補ってしまっていないか」というもの。多くの参加者が、相手への想像力をどれだけ働かせるのかを大切にしていることが伺えました。
ここからは、いくつかカードをピックして、シチュエーションごとにどのような議論が交わされたのかをご紹介します。
まずは、「デートDV」。恋愛関係となると、つい自分の感情が前に出過ぎたり、時には押し付けてしまうことがありませんか?
ある回答では「『好きなら当たり前』という言葉を耳にすることが多いが、愛は相手の気持ちをどのくらい理解しようと努力するかによって計ることができる」というコメントがありました。自分も相手も、それぞれ異なる生活スタイルを持っているからこそ、相手のスタイルや価値観を尊重したふたりのスタイルをつくることで互いにハッピーな関係へと近づけるはず。相手が心地よいと感じる連絡の頻度を聞く、定期的に不満を打ち明ける時間を頻度も決めて設定するなど、お互いに負荷を感じていることの言語化を通して共通認識を持つことが必要なのではないかという意見が挙がっていました。
このシチュエーションでは、実生活で自分が相手の価値観を決めつけてしまっていないかを意識する声がちらほら。チャット中の気になる相手と仲良くなるために、まずは会ってから仲良くなる、一旦興味のないふりをする、なぜ相手の恋愛の話を聞きたいのか説明するなどの意見が出ました。チャット上では汲み取りきれない相手の情報を、対面のコミュニケーションを通じて相手に負担にならない形でやりとりできるのではないかという点から、いろいろなアクションへと落とし込まれていました。
気を使うだけじゃなくて、自分の気持ちを表現することの大切さ
もう一つ印象的だったのは自分の気持ちを伝えることの大切さが反映された意見です。
私たちが相手の「当たり前」を知らないように、相手も私たちの「当たり前」を知りません。「『しんどい』と言えるのはいい関係」という会話が聞こえてくる場面もありましたが、お互いにとって本当に心地の良い関係をつくるには、感じていることを伝え合うことが不可欠だと感じさせられました。
「痩せてるね」や「細いね」といった言葉を、誰にとっても褒め言葉だと思ってつい口にしていませんか?このシチュエーションでは「ボディニュートラル」をキーワードに、相手の容姿に関する言葉の投げかけについて考えてもらいました。ボディニュートラルとは、自分の身体の全てを愛するというよりも、ありのままの自分を受け入れ、尊重するという考え方。「『痩せている=良い』というわけではないことを相手に理解してもらいたいけれど、すぐに理解してもらえるだろうか…」と不安に思う意見や、「着たい服を着こなせない」と自分が好きなものと絡めてもう少し太りたいことを伝える意見、「痩せてることが嫌だから太りたい」と素直に伝えてはどうかという意見まで、相手への返答の仕方はさまざまでした。
SEXTINGとはスマートフォン上で性的なメッセージや画像などをやりとりする行為のこと。普段は恥ずかしくて言えないエロティックな話題でも、伝えることで相手をより身近に感じることができたり、自身のセクシュアリティを探求することに繋がります。一方で、自分の身を危険に晒すリスクが伴う側面も。このシチュエーションカードでは、相手と築きたい関係によってどの程度伝え合うかが変わる、といった意見が多く見られました。とはいえ、会ったことがない人とのチャットでは公共の場でも話せることを話すという意見から、今後も会うことがないなら全部話してもいいという意見まで同意のラインは様々。あるアンサーシートのメモ欄には「自分の嫌は、相手の嫌ではないことを知っておく。自分が嫌だと感じること、大丈夫だと感じることを知る。」と書かれていました。自分が相手を傷つけていないかを考え、自分がどのようなコミュニケーションを求めているのかを知っておくことは、互いに安心できるコミュニケーションをとるための最初のステップになるかもしれません。
相手も私も、自分を大切にする権利と義務がある
二つのシチュエーションについて話し合うワークを終えた後、参加者全員に「これから心がけたいこと」を記入してもらいました。
他にも「もっと知識を勉強したい」という声や、「性教育は人と話していくべきものだと思った」という感想をもらい、性教育を学ぶことはコミュニケーションについて学ぶことに繋がっていると感じてくれた参加者が多かったのが印象的でした。イベント終了時には8つのシチュエーションに紐づくキーワードの詳しい解説をまとめた配布資料を持ち帰ってもらいました。
「小さな同意の積み重ねが大事。」
これは「これから心がけたいこと」シートに書かれていた言葉です。互いに深く理解し合うためには時に勇気を、時に痛みを伴うかもしれない。それでも私は関係を築くなかで生まれた一人一人の気持ちを伝えてもらえる人でありたいと思うし、自分の気持ちも伝えていこうと思いました。今回参加した方の中にも、同じように感じている人は少なくないのではないでしょうか。
互いのリスペクトを前提に、自身のなかに生まれた気持ちを伝えることを諦めなかった先に、良いコミュニケーションがちゃんと形になる。みなさんの声を聞きながら、その思いを強くしました。
アンサーシートを一部抜粋
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writer:maki /editer:ochiba /editer:keisuke